先日、絣の織元の奥様とお話をしていて、なぜ久留米絣とレザーを組み合わせようと思ったんですか?
とご質問をいただきました。
その時、明確に「なんで?」というのが答えられず、自分の思いを伝えきれなかったので、改めて自分の頭の中を整理したいと思います。
まず、自分が物作りを始めた所からのお話になります。
ヴィンテージ古着の魅力
思春期の頃から洋服が好きになり、当時流行っていたビンテージ古着を必死で集め、
地元のDETENTEと言う古着屋に毎日のように通い、社長や高校の先輩に色々と教えてもらいました。
高校を卒業後、DETENTEに数年間お世話になりアメリカに仕入れに連れて行ってもらったりもしました。
今思うと、僕の「もの」に対する価値観がそこで形作られたんだと思います。
50年代のホースハイドのレザージャケット
継ぎ接ぎだらけの501xx
インディゴ染めされたワークシャツ
第二次世界大戦時のミリタリージャケット
コンバースのスニーカー
Bucoのヘルメット
どれも、その「もの」自体がすごい存在感をもっていたような気がします。
古着は破れて当たり前。
破れたら自分でリペアする。
それが自分は大好きでした。
好きから作りたいになり、
デニムを自分で作ってみたい!と思い
岡山県倉敷市児島にある株式会社ドミンゴというデニムメーカーに入社。
厳選した素材を使用し、日本国内でもトップレベルの加工を施したアイテムを得意とする
OMNIGODの販売をしながら、デザイナーのSさんに洋服作りの面白さと難しさを教えてもらいました。
「立体感のある洋服」
と言う言葉をよく使っていました。
人体工学に基づいて3Dで作った洋服という意味では無く、
素材の質感を最大限に生かす為に水洗いをかけた時にあえて縮ませて、生地をふっくらと仕上げたり、
糸の縮みを利用してわざと縫い目付近に凹凸をつけるパッカリングと言う技法など
見えないところで綿密に計算された洋服を作られています。
この縮ませると言う加工がとても難しく、経験豊富なデザイナーとパタンナーが縮率などを計算して作ったとしても、気候や染色する際の温度、乾燥方法などのバランスでかなり差が出ます。
何度も試験を繰り返して何度も失敗して狙ったシルエットになるまで試行錯誤する工程をみていると、すごいこだわりを持って「ものづくり」をしているなと感じました。

力織機で織られたOMNIGODのシャツ。力織機で織り上げる事でしっかりとした肌触りの良い生地が作れます。セルビッチが付いていたり、藍染で染められた生地は経年変化が楽しめます。
このワークシャツは袖口裏にステッチを何重にもいれる事で、破れやすい部分を補強しています。
以前工場見学させていただいた、日本綿布さんの生地。
数十年も前に製造された力織機(シャトル織機)で織り上げられた生地は着れば着るほど表情が豊かになっていきます。

シャツの裏側をみてもロックミシンなどは使用せず、巻き込みで縫製されていて、細部まで綺麗に仕上げています
代官山の店舗で販売していた時に世界的に有名なデザイナーの方が自分の着用分として、大量に購入された事がありましたが、「Beautiful」と言う言葉を何度もおっしゃっていました。
見た目の美しさでは無く、プロダクトとしての完成度の高さを評価しての言葉だと思っています。
力織機(シャトル織機)
前置きが長くなりましたが、この力織機(シャトル織機)と言うキーワードがやっと出てきました。
ビンテージ古着などもこの力織機で織られた生地が多くありますが、やはりこの質感は独特で、着れば着るほど体に馴染み、使い込んでみないと味わえない魅力です。
ジーンズのシャトル織機は通常の織機よりも幅が狭く、29インチ(約73センチ)までしか織れなく、通常のデニムと比べると半分程度の幅になります。
久留米絣の力織機は着物幅で約36cm。
着物に使う反物幅です。
※百貨店や婦人服売り場でたまに絣風の生地をみますが、絣に似せて作っているだけで、広幅(約110cm幅)の生地は久留米絣とは呼ばないそうです。
久留米絣を知ったきっかけ
妻の故郷のみやま市に初めて来たときに、隣の筑後市は絣の生産が盛んだという事を知りました。
それまで絣=昔の作業服、農家のおばあちゃんが着ているイメージしかありませんでしたが、調べてみると様々なプロダクトが動き出している事がわかり、どんどん面白くなってきました。
ちくごに移住して手にした本

久留米絣を勉強した本です。ちくごの手仕事が色々と紹介されています。
この本から色々と学びました。
ちくごには久留米絣以外にも様々な「ものづくり」をする人たちがいる事を紹介しています。
久留米絣のバリエーション
絣と言っても様々あります。
本藍 手染め 手織りの伝統的な技法で作られた久留米絣
山村健さんでは、本藍にこだわり昔ながらの製法で作られていますが、今では徳島産のすくも藍が年間で限られた量しか手に入らなくなってしまった為、価格も高騰してとても厳しい状況だそうです。
デニムでも合成インディゴと本藍の違いは一目瞭然で、本藍はとても深くて良い色に仕上がります。
▶︎藍染絣工房 山村健 様

藍染絣工房山村健さんの本藍、手織りの久留米絣。膨大な時間と手間をかけて作られた生地。
どくろ柄や東欧のビンテージ生地のような質感のストライプ、ハートや水玉などポップな絣も
▶︎久保敬昭織物工場 様

久保敬昭絣工房さんの久留米絣です。どくろ柄が人気ですね。
最近では優しくふんわりと織り上げた絣ストールなんかも人気みたいです。

久保敬昭絣工房さんとギャラリーむつこさんの久留米絣で作ったストール。ゆるく織り上げているので、とても軽くて肌触りが優しくふんわりとした素材感。
こういった生地の質感は力織機で織り上げた絣ならではだと思います。
小幅は広幅に比べて緯糸にかかる張力が少なくて済み、広幅に出せない風合いが出せるそうです。
これが絣の経糸
束で縛った糸を染まらないように防染しています。
筑後市には西日本最大級の糸を染めたりする、染色工場があります。
▶︎筑後染織協同組合
久留米絣の難しさはこの防染する技術と柄合わせしながら織る事だと思います。
僕も初めはよく意味がわからなかったのですが、シマシマに見えているのは、縦糸を約900本織り上げる前に緻密に計算して緯糸と織り上げる時に綺麗に柄が出るように、設計図を元にくくり糸で防染し、それに合わせて緯糸も処理をします。
糸の縮率を考え、日々変わる気温と湿度、糸のコンディションなどを熟練の職人が織機を微調整しながら織り上げるところだと思います。
書くのは簡単ですが、一反生地ができるまでに約3か月かかるそうで、気の遠くなるような細かい作業を積み重ねて、生地が作られます。

久留米絣と縦色
藍染の絣は使い込むと色落ちして、エイジングが楽しめます。
▶︎儀右ヱ門

久留米絣 儀右ヱ門 ぎえもんさんの藍染絣のポーチ
うなぎの寝床さんが絣の製造工程を紹介した動画を作成されています。
筑後地方には様々な織元さんがいらっしゃり
それぞれに得意な分野を開拓されて行っています。
機能的な生地
最新の技術なら簡単に同じ柄の生地を作ることはできます。
ですが、高性能な機械さえ導入できれば、どんな国でも似たような生地が作れるようになり、日本人なのに日本で生産された生地を着る機会が滅多になくなっていると思います。
久留米絣は特殊な織り方をする為、表裏両面同じ柄に仕上がるのでリバーシブルで使え、
昔から、着物や作業着の表が傷んだら裏返して仕立て直したそうです。
生活に馴染んだ生地
筑後に来てから感じたのは、日常に久留米絣が溶け込んでいる事です。
スーパーで買い物していても、お婆ちゃんが普段着で絣を着ていたり、
お茶を出すときに敷くコースターが絣であったり、
ちょっとした小物使いに絣が使われていたり。
複雑な柄の久留米絣で仕立てるた洋服は数万円以上するので、イベント時の正装としても着用されます。
昔は嫁入り道具でも、丈夫な絣の着物などを持って嫁いだそうです。
生徒さんも、結婚衣装として仕立てた絣がタンスに眠っている。。。。
なんておっしゃっていました。
とても貴重な地域のアイデンティティーだと思います。
世界的に見ても「Japan Fabric」として「KURUME KASURI」が注目されつつあります。
日本人の絣に対するイメージがどうしても、年配者が身につけるイメージが強く、実際好まれる方は年配女性の比率が高いそうです。
それでも僕は、生地の柄やカラーリング、異素材との組み合わせで、どんな年代の性別でも取り入れる事が出来るプロダクトを生む事が出来ると感じています。
狭い世界の話かもしれませんが、限られた地域のみで今なお生産されている久留米絣を少しでも存続させる為に、色々な方に知っていただければなぁと思っています。

久留米絣とレザーの組み合わせた商品を色々と企画しています。革はおもに姫路の革を使用しています。
自分が久留米絣が好きな理由
この生地を書く為に色々と頭の中を整理していて、昔から幾何学模様やアールヌーボーが好きだった事を思い出しました。
中学生の時に知ったクリムトとミュシャの装飾的な世界観、
goro’sやRED MOON、PENDELTONなどネイティブアメリカンのテイスト、
日本の家紋や貴重民族の文様など、自然や動物からインスピレーションを得たデザイン。
僕自身あまり柄の服は着ないのですが、チェックとボーダーだけは着ています。
さすがに花柄の久留米絣などは着れないですが、見ていて「美しい・かわいい」なぁと思います。
そういった感覚が大きく影響している事に気がつきました。

アールヌーボーが好きでミュシャやクリムトの影響を強く受けました。ペンドルトンなどのネイティブ柄も好きです。
他所では作れない物
物が溢れて売れない時代と言われますが、革製品も同様です。
限られた量しか生産されない天然素材である「革」は、世界中で枯渇している状態で、年々価格が高騰してる状態ですが、製品の価格は乱売された結果、値崩れして廃業するメーカーさんが後を絶ちません。
どこでも作れる製品を作っても、価格競争に巻きこまれ価格の比較されてしまいます。
売る側も値下げするためにコストカットを図ります。
結果、しわ寄せが来るのは川上と呼ばれる素材の生産者や製品の製造者です。
10代の頃から今まで販売業の世界で物流を勉強してきましたが、一時的に売れている商品でもすぐに飽きられてしまうのを繰り返し見てきました。
色々とからくりがあるとは思いますが、業界のヒエラルキーの上辺の人たちが、情報を操作している事や、
トレンドを追いかけるのに疑問があるのが正直な所かもしれないです。。。
色々と書いてきましたが、自分の好みは別として一番大きな理由としては、
自分が昔、育った環境で身近にあった「革」という素材。
自分が今、生活する環境で身近にある「久留米絣」という素材。
今の自分でしか作れない物を考えた結果がこの組み合わせだったという事だと思います。
他所では作れない物を作る事が一番の強みだと思います。
僕自身、ワークショップでも積極的に「レザー×久留米絣」のアイテムを取り入れています。
まずは地域の方達にもっと地元の特産品を活用して頂き、良さを再認識して色々と拡散していただければなぁと。(僕は県外からの移住者なんで、あまり知り合いがいないので、みなさんのお力をお借りしてます)
そして、久留米絣を使用したプロダクトがもっと増える事で、織元さん達のサポートにもなると思いますし、関連企業も多い地域ですので、もっと色々な新しい事にチャレンジしてみようと活気がでてくると最高ですね。
使うほどに育っていく久留米絣の製品。
ビンテージと呼ばれる物と同じように、使って行いくほどに、体に馴染み自分の生活の中に溶け込んでいくような、製品を作っていければと思っています。
まだまだ、両方とも勉強不足で、魅力を十分に引き出せていないですが、少しづつ勉強しもっと色々なプロダクトを考えて行きますので、皆様どうぞよろしくお願い致します。
最後まで読んでいただきありがとうございました。
絣の製造工程に関して詳しくは
kurume kasuri textile様のHPでご紹介されています。
ご興味がおありの方はご覧くださいませ。
※今まで色々と久留米絣の普及にご尽力されている方達の文献やHPから一部参考にさせていただいている部分がございます。末筆ながら感謝申し上げます。